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初秋の涸沢

1999.9.27〜29
 11月26日、今日から時間制限解除のはずだった工事通行止めが明日にずれこんだ。紅葉の状況調査も兼ねて乗鞍高原をぶらついた僕は一旦松本に戻って夕食をとった後、R158のところどころにある電光掲示板の「中ノ湯〜上高地間時間限定通行」の表示に安心して松本から再び梓川沿いを沢渡まで戻った。沢渡は駐車場部落であり、許可車以外は入れない上高地には、ここでバスに乗り換えて入るのだ。

 最新情報によれば一番バスは6時半頃の予定ということであったが、まだバス停には「運休中」の札があるだけ。一抹の不安は拭えないが、まあ信じて寝るとしよう。
 いつもなら車で埋まっているはずのこの駐車場。この日、「沢渡上の松電の駐車場」で夜明かししたのは、僕ともう一台の車の主という寂しさであった。
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梓川湖畔から穂高を望む


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河童橋から焼岳を眺める


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まだまだ夏の雰囲気

上高地へ

 、もう一台の夜明かしの車の主は、ここ数年涸沢に通い続けているアマチュアカメラマンで、背負子にザックとカメラバックと三脚をくくり付けた、山姿も凛々しいおとっつぁんであった。

 このおとっつぁんの話によれば、ここ数年涸沢の紅葉はハズレ続きなのだそうだ。僕がこの前出かけたのが1994年。この年はかなり良かったのだが、それからというもの鳴かず飛ばずらしいのだ。
 そこにきて今年もダメ情報。
「まあ、それでも行かんと話にはならんからねえ」
行く前からガックリ肩を落としてしまうような会話である。

松電の係員が到着し切符を売り始めた。
いかにも観光できた老夫婦。かたわれのおじさんが係員にしきりに尋ねている。

「次のバスが12時過ぎになっちゃうの?」
「はい」

 土砂崩れの復旧工事はまだ続いていて、一日数回しか車の通行が許されない。当然バスもその時間しか通行できないのである。だから次のバスの運行はお昼になってしまうというわけである。

「じゃあ、行って河童橋まで行って、すぐこのバスで引き返すってことは出来るね」
「3時間くらいユックリされたほうがいいんじゃないですか?」
「だって河童橋くらいしか見るもの無いんだろ?」
「・・・」

「河童橋見て帰るだけなら行かなきゃいいのに」と思うんだけど。こういう人たちは、いったいなんのために行くのだろうか。

「10日ぶりのバスの運行です」 と運転手のアナウンス。
 7時に釜トンネル通行開始。土砂は完全に取り除かれているが、今もスノーシェードは無い状態・・・怖や、怖や・・・。

 上高地着おおおお空いてる空いてる。そりゃあ一番バスだから同然だ。

 本日はピーカン也。今日はコースタイムで6時間くらい歩くのだけど、まあちょっとは余裕があるから写真を撮っておこう。
 梓川のほとりでシノゴのお店を拡げて時間の無駄使い。一時間は遊んだだろうか。

本日のお荷物

 今回はテント装備にカメラ機材はシノゴフィールドカメラ一式と、35mmはF−1一式
 しかし実はシノゴを普通の山のザックに詰めるのは初めてだったりする
「はてさてどうやって詰めましょうかね」
と少し悩んだその結果、サントリーの景品でもらったクーラーバックにシノゴのボディーと、ラムダのレンズ用ケースに入れた150mmと65mmレンズ、スポットメータ、ルーペ、フイルム等を収納。そして大きめのクッキーの空き缶にシノゴのホルダー5つと69ホルダーとクーラーバックに入らなかったフイルムを押し込んだ。これがなかなか収まりが良く、ザックは最密充填状態となって、容積の割に重さは相当という荷物がバッチリと出来上がった。

 少しでも楽にしようと、今年の夏に比べて寝心地のよいマット、大きめのコッヘル、などを省いて軽量化した。それでもいつもザックの中にいれるテントはサイドに横付けにせざるを得ない状態で、重量は30kgを超えている。も・・もしかしたら、こんな重い荷物は初めてなのかもしらん・・・35mmカメラ一式はウエストザックとベストのポケットに収納した。

 通行止めだったこともあって小屋は空いているだろうから、
「紅葉が凄くいいぞ」
ということだったらなら、小屋泊りにしてフットワークを稼ぐ作戦にしても良かったのだけど、ダメなことがわかってしまえば小屋泊りのお金をかけるのが惜しい。だから重いのは承知の上でテントということになる。

涸沢へ

 梓川の右岸を行く。バスターミナルの反対側、明神池側の遊歩道。登山者はたいてい左岸の道を行くが、こちらの右岸道も湿原の中に木道が設けられていてなかなかよい道で僕は好きだ。

 観光客の姿は見えない。荷物は重いが平たんな道。三脚を担いで、写真を撮りながら、風景を眺めながら、悠々だ・・

   だぁ〜! 落ちた!

肩に担いでいた三脚が枝にでも引っ掛かったのか、バランスを崩して僕は左足を湿原に落としたのだ。木道の高さは80cmくらいだっただろうか。うつ伏せになった僕の背中には30kg。お・・・重い・・・、すぐには起き上がれない・・・ものなのねしかし観光客がいなくてよかった恥ずかしい

 幸いだれにも見られなかったようだし、カメラも大丈夫。足はちょっぴり痛いが歩行には差し支えなさそうだ。ふぅ〜

 約一時間で明神に到着。歩き初めはなんともなかったけれどもやはり荷物が辛くなってきた。さらに一時間、徳沢に着くころにはかなりグロッキー気味。先ほどの木道落ちで痛めた左足も少し痛みだしてきた。

「どうしよう」
弱気の虫が疼きだす。

上高地でシノゴを拡げて時間の無駄使いをしていたこともあって、時刻はもう12時を回っている。涸沢まで順調に歩けたとしても、この荷物では午後5時にはなるだろう。
横尾に泊って、明日日帰りで涸沢、明後日も日帰りで槍沢なんて日程も頭に浮かんでは消える。

 横尾には午後一時到着。決断しなければならない。
「行こう」
のんびり歩いても6時には着くだろう。ここで決断すればあとは進むだけだ。
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爽快


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屏風岩
 本谷橋まで約一時間。ここからが厳しい。いや涸沢の小屋が見えてからがなかなか長いのだ。それがわかっているから、始めっから急ぐつもりはなくのんびりだ。

 穂高には雲がかかっているが明日が心配になるほどではない。
 前方にヒュッテが見えてきた。

 涸沢ヒュッテの下辺りはナナカマドが沢山あり例年だと美しい紅葉を見せてくれるのであるが、今年はそれが無い。オレンジから茶色に変わってしまった葉。そうでなければまるで紅葉していない個体。これではちょと写欲は沸かない。

 同じようにデッカイ荷物を持った男性と前になり後ろになり・・・
「だめだねえ、こりゃあ」
などと落胆しながら歩き、ようやく涸沢ヒュッテ前に到着した。

 予想通り小屋はガラガラ、テントもちらほら。いつもの秋ならこんな時間に着こうものなら角張った岩でゴテゴテの床下を覚悟しなけりゃいけないのだけれど、今日は余裕、余裕。選択の余地は十分すぎるほどある。
 テントを張って、飯を作って食って・・・アルコールをやらない僕にとっては、あとは明日の朝の撮影準備をすれば、寝るだけだ。


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前穂とオリオン


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涸沢岳朝焼け

快晴の朝

 夜、目を覚まして、テントから外を見てみると・・・快晴である。前穂高岳の上には。思わずうふふである。

「朝からどうしようかな〜。」
奥穂に登ってもいい、北穂でもいい、ブラブラしてもいい。とりあえずはヒュッテの裏で朝焼けを撮るというとこまでしか決まらない。あとは成り行き。まあいいや、もう一寝入り。

 夜明け前、カメラを持って外に出た。小屋の裏手、他のカメラマンはまだ出ていない。大きな石の上に三脚をセットして大判を据える。5時を回った・・小屋の明かりがついた。空の青がどんどん明るくなる。
 やがて西の空が赤くなり、そしてその赤い光が穂高を照らした

 今日は面白い小道具を持ってきている。シノゴのパノラマ撮影用の遮光板だ。これをシートフイルムホルダーの遮光板と入れ換えて使う。いたって単純、画面の半分をマスクするだけのことである。サイズは5×12cmくらいになる。
「これで、シートフイルム1枚で2枚のシノゴが撮れる」
と喜んだが世の中そうは甘くなかった。

 水平に近いものだったらよかったのだが、涸沢の場合には見上げる撮影になるためカメラはを上に向ける。フイルムの下段に露光しようとするときにはさらにカメラを上に向けなければいけない。これは相当に不格好な撮影である。画像のゆがみも相当である。まっ、どうせ遊びなんだからいいんだけども。

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目一杯秋を感じて・・


涸沢での一日

 朝の撮影終了後一度テントに戻り、支度を整えたあと再び撮影に出た。
 ヒュッテの裏からパノラマコースと名付けられた奥穂高への登山道を写真を撮りながら登る。紅葉という意味では「さっぱり」と言ってよい。そのまま奥穂高へとも思ったけれども涸沢小屋からの登山道と合流したところで、小屋の方へと下った。例年ならばこの道沿いは涸沢の中でも紅葉撮影のメッカと言ってもよいほどの場所。けれども今回はなんとか秋っぽく秋っぽくと工夫しながらの撮影となった。なんとか・・・少なくとも初秋は表現できたのではないかと思っている。涸沢小屋からテント場に向かう道でコンタツさんこと写真家の近藤辰郎氏とすれ違った。

 テントに戻ってごろごろしていたが、あまりに手持ちぶさたなので、ちょいと屏風まで行ってみようと思い立って出かけた。途中からは槍ケ岳も見えてくる。傾きかけた秋の陽で照らされた稜線は郷愁を誘うコントラストを見せる。
 紅葉も今回見た中では一番奇麗な様子で
「ああ来て良かった」
と大満足。

 徳沢への道を右に分けてひと登り。富士山蝶ケ岳の稜線、そして常念。色とりどりの木々に飾られた屏風の黒い岩壁。光の届かない涸沢はすでに蒼く落ちている。そろそろ夕暮れ。本格的に暗くならないうちに・・・とテントに引き返した。

 涸沢ヒュッテでは近藤辰郎氏のサイン会をやっていた。午前中涸沢小屋から奥穂への道を歩きだしていたから上まで行くのかと思っていたけれど、どうやらここで停滞するらしい、数日後にヤマケイの写真教室があるのだろう。
 オリジナルポストカードを買うとコンタツさんがそれにサインをしてくれる。本来なら躊躇無く買うところだが、僕はもうそのポストカードは数年前に買って持っているのだ。
「ここでミーハーに買うのもみっともないよな〜」
と思って悩んだが、ついつい買ってしまった。
コンタツさんも、紅葉がこんなに遅れているとは予想外だったようだった。
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大岩とナナカマド


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初秋のカール


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午後の槍ケ岳を望む


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日暮れの涸沢



 何だかんだで、一日たってしまった。収穫はあったような無かったような。
もちろん「錦繍の涸沢」 は存在しなかった。
でもここでノンビリできたってことは嬉しいことだ。

 考えてみれば紅葉のピークだけが涸沢ではないのだ。他の季節も涸沢であり、季節の狭間もまた涸沢なのである。美しいのは紅葉だけではない。だって、夏だってこの景色に十分満足しているじゃないか。緑も黄色も茶色も涸沢の色であり自然なのだ。「紅葉の名所」「錦繍の涸沢」というキャッチフレーズが先行し、派手な紅葉のイメージを持ちすぎて僕らはここに来すぎる
 先入観の無い素直な目で自然を見つめたい。そうすれば腐らずに済むし、新しい発見だっていくらもあるはずだ。
 今度は紅葉が終わりカールが雪に埋もれる季節に訪れたいと思う。

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北穂高岳夕景

さらば涸沢

 3日目は夜明け前からパノラマコースを登り、涸沢岳を朝日が照らすのを待った。
 山頂は雲に隠れていたが、夜明けとともに雲は動き昨日に比べると変化に富んだ朝であった。

 今回は三脚を一本しか持ってこなかったため、朝の慌ただしい時間帯の撮影は大判と35mmを取っ換えひっかえ雲台に載せ替えなくてはならずかなり大変である。
「やはり三脚は二本かぁ〜」
と思ったが、今回この一本だけでも相当に持て余している。二本ともカーボン三脚にすればなんとかなりそうだけれど、とてもとてもそんな予算は出そうもない。

 着いたときにはガッカリした涸沢だがイザ去ろうとすると去り難い。今度はいつ来れるのか。さらば穂高よ・・(ってほどでもないけど)

 下山は登りのようにへこたれることもなく快調。痛めた足もさほど問題にはなっていない。徳沢でコーヒータイムにしたほかは、ほぼコースタイムで上高地まで下山しバスの人となった。
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