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前後して歩いていた男性から、
「劒岳まではまだかかりますか?」
と尋ねられた。
「まだ2時間はかかると思いますよ」
と答えると、彼は怪訝そうな顔をして
「今、人が立っているところが頂上ではないのですか?」
と言う。
「それは前剱ですけど・・」
と僕。
「剱沢はどこですか?」
おいおい・・・
と、こういう方もたまにおいでになる。
それでもなんとかなってしまうところが北アルプスなのであるが。
前剱への登りはじめはごろごろした岩の道で歩きづらいが、そのうちに完全に安定した岩場となる。登山道に「鎖」は見え始めるのもこのあたりからだ。「鎖」は恐らく最近付け替えられたのだろう、ステンレス製でピカピカだ。取付けもしっかりしており安心感がある。
前剱山頂で一服。もう剱は目の前だがまだまだ厳しい道のりは続く。一旦下って平蔵のコル。「平蔵」だの「長次郎」だの、剱周辺には人の名前がついた尾根や谷の名が目立つが、これらはみな初期の「ガイド」の名前である。彼らが開拓したルート上に由来した名が与えられているのだ。
ここで二人組の男性パーティーを追い抜いた。二人とも70歳近いのではないだろうか、しっかりとした足取りだが、これからの岩場をクリアできるのか他人事ながら心配にはなる。
ここからしばらく登りと下りが別ルートとなっている。岩場のルートですれ違いが困難だからだ。難所として有名なカニのタテバイは登りルート、カニのヨコバイは下りルートにある。一方通行とはいっても、スムーズに抜けられる人、てこずる人とさまざまだから、登山者が多いときには数珠つなぎになってしまう。今日はガラガラなので自分のペースで歩けるのが助かる。いや歩くというよりも攀じ登るというのが正解。
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